INTERVIEW

「ダンサー、言葉で踊る」番外編 IN HOLLAND
小㞍健太 / 飯田利奈子 / 高浦幸乃 / 刈谷円香 /鳴海令那 特別座談会

取材・文・写真: 小㞍健太

オランダ滞在中の元NDT 1ダンサーの小㞍健太さんに、現役・元NDTダンサーたちとの座談会レポートをお送りいただきました。2018年9月に行われた、「Dance Lab ダンサー、言葉で踊る」のキュレーターを務められた小㞍健太さんからの、番外編レポートです。
ダンサーの皆さんに、NDTの魅力やご自身について、ざっくばらんにお話いただいた様子をご紹介します。

左から、鳴海令那さん、小㞍健太さん、飯田利奈子さん、高浦幸乃さん、刈谷円香さん

来日公演を控えたNederlands Dans Theater 1 (NDT 1 ) に在籍する日本人ダンサー、飯田利奈子(いいだりなこ)、高浦幸乃(たかうらゆきの)、刈谷円香(かりやまどか)、そして友情参加してくれた鳴海令那(なるみれな。元NDT 1、現在クリスタル・パイト率いるKidd Pivotに在籍)にカンパニーやダンサーとして思っていることを中心にインタビュー。夕食後の和んだ雰囲気で座談会はじまり!

小㞍:
 お互いに公演中でなかなか集まれなかったね。今日はぜひ遠慮なく聞かせてね。まずはNDTをどのように知ったの、興味を持ったきっかけは?

高浦:
 日本にいた時(留学する前)はカンパニーの存在しか知らなかったけれど、ハンブルクバレエスクール時代のクラスメートにNDTのファンが多くて、見に行った公演やサマーインテンシィブコース(NDT Summer Intensive / NDT主催夏期講習会)などの話を聞いて、私もYouTubeなどでNDTの映像を見るようになって知りました。

刈谷:
 私も同じで、日本にいた時は名前だけでどんなカンパニーなのかはわからなかったけれど、留学先のドレスデン・パルッカ・シューレのクラスメートのほとんどがNDT 2のオーディションに参加するほど人気のカンパニーだったので、一目置かれるカンパニーであると感じたのを覚えています。また学校の先生がクラスで映像を見せてくれたこともあり、レパートリーなどカンパニーについていろいろ知りました。

飯田:
 私は、島崎徹先生(神戸女学院大学教授)です。大学で聞いたさまざまな話から「NDTっていうすごいカンパニーがオランダにあるらしい。」と知りました。

高浦:
 健太さんは?笑

小㞍:
 僕? キリアン作品を見たのが始まりで、それからNDTというカンパニーがあることを知った。面白いのが、キリアン作品を初めて生で見たのがリヨンオペラ座バレエ団の来日公演でね、踊っていたのが金森穣さんと渡辺レイさん!

高浦:
 すごい。キリアンを知ってからそのあとどうやってNDT 2を…? 健太さんに質問がいっぱいある!

一同:
 笑

小㞍:
 みんなのプロフィールを聞いてなかったね。

飯田:
 神戸女学院卒業後、Noism2で2年間踊って、NDT 1に入団しました。

小㞍:
 シンプル!笑

刈谷:
 YAGPのNYファイナルで銀賞受賞して、ドレスデン・パルッカ・シューレへのスカラーシップをいただいて3年間留学しました。バチェラー オブ アート(Bachelor of Arts)という学士号を取得して卒業後に、チューリッヒバレエ団のジュニアカンパニーで2年間踊って、NDT 2へ。3年後にNDT 1に昇格しました。

小㞍:
 じゃあ、チューリッヒでは宙夢(来シーズンよりNDT 1に昇格。取材時はパリ公演中であったNDT2在籍ダンサー、福士宙夢)と一緒だったの?

刈谷:
 私の2年目に彼が入団してきたので1年ズレてましたが一緒でした。

高浦:
 私はローザンヌコンクールに参加した後に、ハンブルクバレエスクールに2年間留学しました。卒業後は、ハンブルバレエ団のジュニアカンパニーとNDT 2でどちらも2年間踊ってNDT 1に上がりました。

小㞍:
 あれ、幸乃ちゃんとまどちゃんはどっちが先にNDT 2に入団したの?

高浦:
 私が1年早かったので、一応先輩です!笑
NDTスタジオ前に掲示されているポスターの写真。前が高浦さん。
小㞍:
 僕はNDT 2のオーディションを受けるまでの心の準備に実は数年かかったけれど、入団までの経緯を聞いてみたいな。

高浦:
 ハンブルグバレエ団のジュニアカンパニー時代に元NDT 1ダンサーの振付家ナターリア・ホレツナの作品を踊ったことで、NDTの質感を感じることができてもっとやってみたいと思ったのがきっかけです。それから芸術監督のジョン・ノイマイヤーも後押ししてくださって、NDT 2のオープンオーディションを受けました。実は学校卒業の年に1回目のオーディションに行ったのですがダメで、2回目のオーディションでした。

刈谷:
 学校卒業の時は私にはNDT 2はコンテンポラリー過ぎて自信がなかったのですが、キリアン作品のコーチングのイヴァン・デュブルイユ(元NDT 1のダンサー)などとの出会いやチューリッヒバレエ団での舞台経験から現代振付家の作品やクリエイションに興味が湧いてきました。芸術監督のクリスチャン・スプックからのアドバイスでNDTを推薦してくださったこともあり、ラストチャンス(NDT 2は21歳までしかオーディションを受けることができない)のオープンオーディションを受けました。

鳴海:
 私もカナダにいる時に元NDT 1のレスリー・テルフォードから影響を受けました。

小㞍:
 利奈子ちゃんは去年NDT 1のプライベートオーディションを受けたんだよね?

飯田:
 はい。とにかく海外のカンパニーを見て回ってオーディションを受けようと思い、幾つかのカンパニーに履歴書を送ったけれど書類審査でほとんど断られてしまって。NDT 1は連絡をしたらオーディションしていないけれど、クラスは受けてもいいということでその旅の最後に行きました。偶然にも芸術監督のポール・ライトフットが、バレエクラスの最後にスタジオに現れて、これはチャンスともう死に物狂いで左のグラン・パ・デッシャをやりました!笑 思い切りやった気持ちが通じたのか次の日のクラスはバーから見に来てくれて、「明日のクラスにもう一度来られる?」と尋ねられて、即座に「行きます」と答えました。次の日はクラスの後に『Shoot The Moon』などのレパートリーと即興ソロをやりました。そのあと芸術監督のオフィスでの面談で「来シーズンからよろしく!」とポールが笑顔で迎えてくれて。人生で一番の出来事です。

小㞍:
 どれだけの左のグラン・パ・デッシャだったのか見てみたい!笑

飯田:
 もう飛べるだけ飛んで、開くだけ開きました!笑

一同:
 爆笑
現在改修中のNDTの劇場。
小㞍:
 NDTはいろんなレパートリーがあるから特にメソッドはないけど、特徴はあるよね?どう思う?

刈谷:
 私の印象としては、チューリッヒバレエ団などバレエダンサーのバレエクラスの受け方と、NDTのダンサーの受け方がすごく違いますね。クラシックバレエのクラスだけれど、コーディネーションをうまく使って動いているというか、自身の身体に合ったクラシックの踊り方をしていて、それがレパートリーを踊りこなすための準備なんだなと感じました。

高浦:
 うん、固めないで身体がより動けるクラス。

刈谷:
 クラシックバレエの基礎に向かうクラスではなくて、自分の身体に向かう時間で、コーディネーションをフルに使うようにする。クラスのアプローチが違います。

高浦:
 バレエの型を使ってコンテンポラリーの動きに広げていく感じです。ここのダンサー、動きますよね、特にジャンプとか!バレエだったら型をきれいに保たないといけないけれど、動いて、動いて、スペース取って、動きにきれいな余韻があります。

飯田:
 とにかく自由。笑 各々のダンサーの個性を尊重してくれる指導で、クラスでは自由に動いていいことが嬉しくて、初めてクラスを受けた時は感動してしまいました。

刈谷:
 バレエクラスは本当に自由ですね。

高浦:
 NDT 2に入団した時に、ここのダンサーはディレイする踊り方をするのが印象的でした。それまでは、動きの起点は目線や顔からというのに慣れてしまっていて、それまでやったことも見たこともなかった体の使い方だったので、「ディレイの法則」と名付けて克服したのを覚えています。笑

刈谷:
 がむしゃらではなくて、ステップをこなすために試行錯誤を重ねて自身の身体をコントロールしているダンサーが多いです。側から見ると簡単になんでもできてしまうよう見えますが、そこがクオリティに繋がっていると思います。

小㞍:
 身体コントロールのクオリティは、キリアン作品でもポール作品でも独自の質を求められる。NDTの特徴かもね。

鳴海:
 動きを流せるダンサーが多くないでしょうか?動きのエネルギーが流れているというか、コーディネーションができているダンサーが多いです。

刈谷:
 踊りの特徴って、いざ言葉にしてみると難しいです。

小㞍:
 踊る時に意識していることや心がけていることはある?

高浦:
 その日できるベスト!その日のその瞬間の自分ができることにフォーカスしていきたいです。

刈谷:
 精神も身体の面でも地に足をつけて、グラウンディングして踊りたいです。アップアップしてしまうと気持ちも重心も浮いてしまって雑音のように感じて、迷いに繋がったりもするので、ふっと雑音を消すために、心と身体をグラウンディングさせて踊れる状態にしたいと心がけています。落ち着いているとその瞬間にいれる気がします。初演のときは、いつも「ひぇええええっ」となりますが!笑

小㞍:
 初日はやっぱり特別だね。テクニカル的に難しい作品ときは、特に平常心とその身体でいたいね。

飯田:
 私は一気に直せる人ではないので、大学のときから1週間毎に「手を意識しよう」「腰を低く」「肩を下ろす」など自分の中で決めて、トータルして一番良かった意識をパフォーマンスまで持っていけるようにしています。公演の直前は、体が覚えているのでいい緊張感だけを持って「よし、できる。いける!」という気持ちになれるようにしています。
クリスタル・パイト振付『Frontier』のリハーサルより。右がNDT在籍時の小㞍さん。©Joris-Jan Bos
小㞍:
 ちょうど僕とみんなは10歳くらい離れているんだけど、10年後の自分って考えている?想像できる?

高浦:
 例えば10年前の17歳の時の10年後は、プロのダンサーになってカンパニーで踊っていたいという願いもあったし、それに向かっていたので想像ができたけれど、これからの10年後のプランを立てたいというか、立てようって今は思わなくなっています。探しているのかな、まだ分からなすぎて想像ができないです。

飯田:
 HAPPY!笑

小㞍:
 利奈子ちゃんのHAPPYの概念は?

飯田:
 10年後も今と変わらずいつ死んでもいいと思える人生。

一同:
 笑

飯田:
 本当に私そう思っているんです!笑 探そうと思えばあるけれど、正直今はないというか。一番の課題は、プロのダンスカンパニーに入って親孝行をするということで、これだけはしたいと思っていたことを一応はNDTに入団できて達成できたので、あとは自分の欲望というか望みばっかりで、別にそれらを望もうってそんなにないなと思った時に、いつ死んでも後悔はないなって思い始めて、10年後も変わらずそういう気持ちでいたいです。願ったらいっぱいありますけどね!笑

刈谷:
 10年後は、分からないですね。できて1年後?!笑 でもいろんな可能性があってほしいです。変化も受け入れてこのままの環境が10年続くということでなくてもいいなと思うので、あえて決めたくないです。なんでもあってほしいって逆に思ってしまいます。
NDTのスタジオ前に掲示されているポスターの写真。右が刈谷さん。
小㞍:
 最後に、待ちに待った来日公演について聞かせて欲しい。

高浦:
 来日公演を観に来てくださる観客の皆さんの人生に、NDTの世界を体感するという経験が刻まれることがすごいと思います!日本と違った感覚やセンスがあるNDTの世界だけれど、それが日本のお客さんの感覚にも入っていければ、感じ方や想像がもっと拓かれていくだろうなと思います。

刈谷:
 ぜひ生の舞台芸術を体験するために来てほしいです!NDTに限らないですが、未知のものに触れる機会として劇場にいろんな舞台を見ていただきたいです。感じることがアートとの接点になるので、好き嫌いではなくて、感受性を広げる一つの手段になればいいなってすごく思います。

鳴海:
 存在だけでもいいので知っておいて欲しいです。アートと生きていけるという事実(日常)がヨーロッパにはすごくあるから、ここ(公演)だけではなく、それごと持っていけたらいいなと思います。自分もアートの一部として生きているという感覚がある環境の存在を知ってもらいたいです。

飯田:
 はじめてNDT 1を見た時の衝撃!特にクリスタル・パイトの『The Statement』。こういう作品を日本でも見る機会が増えたら、コンテンポラリーダンスの価値観が変わると思うほど。もう人生変わるから絶対見に来て!と後輩たちには言っています。笑 でも踊り手でない方には、どう伝えたらいいのか。この凄さが言葉だけでは伝わらないのがもどかしいです。

小㞍:
 いいね、こうやってダンスについて日本語で話すの。自分がどう考えているのかもクリアになってくるし、意見交換ができて本当に楽しかった。またぜひ座談会しよう。今日は時間を作ってくれてありがとう。

一同:
 ありがとうございました。

取材日:2019.5.22

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