INTERVIEW

刈谷 円香さんインタビュー

今シーズンで、NDTでのダンサーとして5年目を迎えた刈谷円香さんに、マルコ・ゲッケの作品を中心にインタビューを行いました。

(c)Rahi Rezvani

16歳でドイツ・ドレスデンのバレエ学校パルッカシューレに留学後、チューリッヒ・バレエ団のジュニアカンパニーに入団。2014年よりNDT2に入団。2017年よりNDT1。数多くの振付家の作品を踊る。昨年はマルコ・ゲッケ振付の『Walk the Demon』(2018)のクリエイションから参加、出演している。マルコ・ゲッケの魅力について聞いた。

インタビュー:唐津絵理
編集・文:乗越たかお

■マルコ・ゲッケについて
-マルコ・ゲッケは世界で最も注目されている振付家の1人ですが、今回上演する『Woke up Blind』は、本格的に⽇本に紹介する初の機会となります。彼とのクリエイション経験をお持ちの刈谷さんから見て、彼の特徴などをお聞かせください。

「『Woke up Blind』は、私がまだ若手カンパニーのNDT2にいた頃にNDTへ振り付けられた作品なので、私はこの作品のキャストには入っていません。でも初演で観た時は、まるでロックコンサートを観ているような興奮がありました。マルコさんの作品は身体の細部の動きまで振付されていて、顔のパーツの動きまで振り付けられています。細かさやスピード感もマルコさんの作品の特徴の1つではないでしょうか。シンプルに見える動き1つでもかなりのスピードで繰り広げられるので、ダンサーが人間の身体ではないような錯覚にも陥りますね」


-マルコ・ゲッケとのクリエイションはどんな風に進むのですか? 

「初めてマルコに直接会ったのは私がチューリッヒ・バレエ団で踊っていた時です。スタジオの中でも外でも、シャイながらも気さくで素直な方で良い意味で驚いたのを覚えています。初めてのマルコとのクリエイションをした作品は今シーズンはじめに上演された『Walk the Demon』でした。じつはマルコさんのリハーサルが行われているスタジオは外から見ればすぐにわかるんですよ。というのもマルコさんはスタジオの天井の蛍光灯が嫌いで、いつもランプなどの間接照明を使って薄暗い中でリハーサルをしているからです」
マルコ・ゲッケ振付『Walk the Demon』より。手前が刈谷さん。
©Rahi Rezvani
-たしかに『Woke up Blind』も、全体は非常に薄暗いですね。

「時には、薄暗いなかでさらにサングラスをかけて、踊っているダンサーのすぐ近くまで寄ってきて上半身の動きを見ていることもよくあります。でも動きを創っていく時は、ジグソーパズルをハイスピードで組み立ていくような感覚です。彼が伝えてくれるイメージを元に創っていったり、身体のここをこう動かしてみて、と言われながら導かれているうちに、動きができていくんです。そして最終的にそれらの動きをマルコが求めている速さにしたり、繰り返したり、キレのあるダイナミックさを加えていくのですが、その過程がとにかく速い。私は頭も身体も付いていくのに必死で、首や腕がよく筋肉痛になっていました。クリエイション終盤のステージリハーサルでは、照明やスモークなど様々なアイディアの舞台効果が追加されるのですが、彼の世界観の面白さが一気に立ち上がってきて、毎回引き込まれます」


■NDTについて
-NDTに入団したきっかけを教えてください。もともとコンテンポラリーな作品に興味があったのでしょうか?

「日本ではクラシックバレエを5歳で始めました。当時、海外でどんなジャンルのダンスやダンスカンパニーがあるのかといった知識は、あまりありませんでしたが、16歳でドイツ・ドレスデンのバレエ学校パルッカシューレに留学してから、踊りの世界観が広がりました。クラスではモダンやインプロビゼーションのクラスがクラシックバレエと同じ割合いでありましたし、コンテンポラリーダンスの公演も多く観ました。この頃からNDTは憧れのカンパニーの一つになりました。夏の卒業公演でイリ・キリアンの『Sechs Tänze(Six Dance)』(NDT1, 1986)を踊らせて頂き、その時に教えに来ていた元NDTダンサーの方にNDT2のオーディション受けてみてはと薦められました」


-オーディションは受けられたのですか?

「いえ、その時点ではすでにチューリッヒ・バレエ団のジュニアカンパニーの仕事が決まっていたので、卒業後はチューリッヒで働き始めました。チューリッヒでの2年間、古典作品も踊る機会を頂きながらも、コンテンポラリー作品を踊ることや振付家とのクリエイションが楽しいとの思いがどんどん強くなっていきました。
NDTのことはずっと気にはなっていましたが、今こそNDTにチャレンジしたいと強く思いました。そしてチューリッヒ・バレエ団の芸術監督であったクリスチャン・シュプックの推薦もあり、2年越しでNDT2の一般オーディションにチャレンジしました。朝から夜まで続くとても長く大変なオーディションでしたが、それを乗り越えて本当に良かったです」


-NDTではこれまでどういう振付家の作品を踊られていますか? 特に好きな振付家や作品を教えてください。

「NDTではハウス・コレオグラファーであるポール&ソルの作品を始め、ハンス・ファン・マーネン、マルコ・ゲッケ、イスラエル人の振付家オハッド・ナハリンやシャロン・エイアル、エドワード・クルッグ、元NDTダンサーだったヨハン・インガー、アレクサンダー・エックマン、イリ・ポコーニー、メディ・ワレルスキ、ブライアン・アリアスなどの作品を踊りました。昨シーズン踊ったオハッド・ナハリンの作品『The Hole』(2013)は観るのも踊るのも好きな作品でした。作品は1時間ほどの長さなので1日に2回公演や時には3回公演もあり、体力的にきつい作品でしたが、踊っていて毎回違った体験がありました。公演が最終日に近づいてくるとどこか寂しい気持ちになったのを覚えています。リハーサルから公演中の3ヶ月間は毎日バレエのクラスではなくGAGA(オハッド・ナハリンが開発した身体トレーニング方法)のクラスを受けることができて、彼のスタイルを少しでも理解できる貴重な経験になりました」


-NDT のカンパニーの特徴を教えてください。刈⾕さんにとってこのカンパニーの魅⼒はどういったものでしょうか?

「NDTには様々な国籍、様々な肌の色のダンサー達がいます。1人1人が違ってそれぞれに素晴らしい才能を持った素敵なダンサーたちに囲まれての仕事はとても刺激的です。ダンサーに階級がないことも、NDTの大きな魅力のひとつです。一緒に働 くダンサーや振付家、バレエマスターから学ぶことが毎日のようにある、とてもクリエイティブな場所だと思います。今までのカンパニーの歴史においても、いつも新しいものを創り続け、前進して行く集団なので、これからもこのカンパニーの進化が楽しみです」


-NDTのダンサーとして⼤切にされていることは何でしょうか?

「NDTはシーズンを通して様々な振付家の作品を上演します。同時にダンサー達は素早く様々なスタイルの動きやクリエイションのスタイルに適応する必要があります。クラシックバレエのテクニックの要素が多いスタイルもありますし、バレエの概念を必要としないスタイルもあります。いかにオープンマインドで素早くいろんなことを吸収できるか、またダンサー側からも提案する力を持つことが、NDTで踊っていく上で大切なことだと思います。そしてこのカンパニーは、ダンサー、バレエマスター、舞台スタッフ、衣裳部、オフィスの方など全てのチームが、いつもより良いものを創り上げようという想いで働いています。私も常に、その時にできるベストを尽くそうと思っています」


-⽇本公演についてのメッセージをお願いします。

「今回の日本ツアーのプログラムの振付家は、どれもがそれぞれに魅力のあるスタイルを明確に持っている人ばかりです。クリスタル・パイトの『The Statement』はダイナミックで滑らかな動き、映画のような音楽、社会問題、舞台効果、全てがバランスよく混ざり合っていて、何度観ても強いメッセージが心に残ります。ポール&ソルの『Shoot the Moon』『Singulière Odyssée』の2作品はバレエをベースにした動きと共に演劇性の高い作品だと思います。それでいてストーリーは観客1人1人が想像できるような余白を与えてくれる演出になっていますね。
NDT2での3年間も含めると、私がNDTで踊って5シーズン目になります。この時期に、13年ぶりとなるNDT1の日本公演に参加できることは夢のようです。私はヨーロッパに移り住んで初めてNDTの公演を生で観た時の感動を今でも覚えています。日本のお客様にもぜひこの機会に劇場に足を運んで頂き、ステージと客席の間でしかできない体験を楽しんで頂けると幸いです。
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